約20年前、旅行情報誌の仕事で京都中を巡っていた頃、壊されていく町家をたくさん目にしました。
古き良き暮らしの風景が、ひとつずつ消えていくことに、胸が締めつけられる思いがしたのを今でも覚えています。
そんなときに出会ったのが、この町家です。
初めて足を踏み入れた瞬間、「ここを残したい」「この空間を生かしたい」と心の底から思いました。
そしていつか、ここで過ごす時間が誰かの癒しになれば――。そんな想いが、ずっと私の中にあり続けていたのです。
旅というのは、「どこへ行くか」も大切だけれど、
「どこで過ごすか」のほうが、心に深く残るものだと私は思います。
だからこそ、この町家での時間を、心に残るひとときにしていただけたら――そんな願いを込めて、2008年に「nao炬乃座」を開業しました。
当時はまだ珍しかった町家の宿も、今ではたくさんあります。
町家が壊されることなく、再利用されているのは、とても嬉しいことです。
ただ中には、新築で町家風に建てたものや、内装を全面的に現代風に改装した宿もあります。
nao炬乃座では、できるかぎり昔の姿を残すことにこだわりました。
建具や柱はそのままに、畳や壁は丁寧に整え、天井には京都の伝統技法「網代(あじろ)」を設えています。
鍾馗さんや祇園祭の粽、御所人形を飾り、着物の帯や反物をアレンジして床の間やテーブルにあしらい、京都らしさをしつらえの中に散りばめました。
居間からは坪庭を眺めながら、ゆったりとした時間をお過ごしいただけます。
お風呂は信楽焼の手びねりによるもの。遠赤外線効果で、体の芯からぽかぽかに。
お食事は、老舗の仕出し料理屋さんよりお届けする京都ならではの味。
朝食は、朱塗りの器に盛られた精進料理。
夕食は、天ぷら、焼き魚、胡麻豆腐など京都の素材を詰め込んだ懐石風のお弁当をご用意しています。
最盛期には6軒まで広がりましたが、コロナ禍を経て、今は別邸 梅小路の一軒のみとなりました。
だからこそ、今はこの一軒をもっと大切に、大切に育てていきたいと思っています。
貸切の町家で、まるで時をさかのぼったかのような静かなひととき。
そんな京都の暮らしの余白に、心を委ねていただけたら幸いです。
nao炬乃座のお湯のみは、道仙工房さんの手作りの清水焼で、手にしっくりなじみます。
祇園祭のちまきは、京都の人々の玄関先には、必ず祀ってあります。
玄関の上あたりにあるのは、家を守ってくれる鍾馗さん。町家に到着したら、ちょっと上を見てみてください。
どれも、京都の人が大切に受け継いできているものです。少しのお時間ではありますが、京都を楽しんでお過ごしください。